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シードベンチャーのファイナンス(J-KISSとみなし優先株式)

こんにちは、MAKOTOの下里です。

 

3回目の今回は、2018/8/20、9/18の2回にわたって社内のクローズド勉強会でテーマにした、シード期のベンチャーファイナンスの手法について解説します。

最近「J-KISS」や「みなし優先株式」といった投資手法がシード期において使われることが多くなっていますが、ぱっと契約書を読んだだけですぐに理解するのは難しい内容です。特に、首都圏ベンチャーより情報が入りづらい地方ベンチャーの方の理解の一助となれば幸いです。
※筆者の個人的な見解に基づいた内容です。

 

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社内勉強会の様子

 

■そもそもなぜ優先株式を使うのか?

▼概念

例えば、pre9億円のベンチャーに1億円投資したとします(post10億でシェア10%)。
VCとしては、上場時、時価総額100億・シェア7%とかを考えて出資するわけですが、諸事情により3億円でMA EXITとなった場合、経営株主とVCのリターンはどうなるでしょうか?

全て普通株式だった場合、3億円を経営株主とVCのシェア比率9:1で配分することになります。分配額は、前者は2.7億、後者は3,000万ということになり、VCが7,000万マイナスになる一方、経営株主はそれなりの創業者利益を得ることになります。(もちろん、経営株主も目指していたところまでたどり着けず不満足ではあると思います。)

このように、スモールMA時には、経営株主とVCで大きく利害が食い違うため、意見がまとまりにくくなります。結果、適切なタイミングでMAができない等、意思決定に支障が出てしまいます。また、VCとしても、上場まで到達する事がよほど確実な先にしか投資ができないという事になってしまいますが、シード期にそんな投資先は存在しません。こういった問題を防ぐために優先株式が活用されます。

冒頭のケースで、優先株式での投資とし、「残余財産分配額1x、参加型」というキメがあればこうなります。

3億円のうち1億円をVCに優先分配し、残る2億を9:1で分配します。
そうすると、分配額は、経営株主は1.8億、VCは1.2億となり、少なくとも両者ともプラスリターンだった、ということになります。(やはり、双方満足ではないでしょうが。)

こういった仕組みを使うことで、VCはある程度思い切ったValuationでベンチャーを評価し、投資できるわけです。 

▼優先株の問題点

とはいえ、優先株は便利なだけではなく、下記のようなデメリットがあります。
・諸条件の交渉が大変
・株主総会を開くたび、種類株式総会も開催する必要がある

もちろんHigh Valuationで大き目の投資となる場合はVC側としても優先株を選択しますが、優先株式を使うと負担が重すぎる、でも普通株式で投資するには高すぎるValuationだな、というケースがあるのです。

そこで、この問題点を回避すべく、投資時点では優先株式ではないが類似した性質を持ち、また、後で優先株式でのファイナンス時に優先株式に転換されるような投資手法として、まず「Convertible Note」、その後「Convertible Equity」が開発されました。

■「Convertible Note」

▼概要

「Convertible Note」とは、当初は貸付金として資金供給し、その後、次のエクイティファイナンス時(※)に株に転換させるやり方です。
 ※一定の条件アリ。「適格資金調達」等と呼び、調達額や残余財産分配権などの投資条件を満たした場合転換される。

 ・最大の特徴は、投資時に株価を決めなくて良いこと。(適格資金調達時に決定された株価に連動して、転換される株価が決定される)
 そのため、スピーディーな投資決定がしやすい。(JPと比較しUSではベンチャー側の方が交渉力が強いため、VCやエンジェルとしては早く決めることに対するニーズが大きい。)

 ・貸付金なので、株式より優先して返済される。
 ・書類もシンプル。
 ・日本では主に新株予約権付社債で実装。 

▼リスク・デメリット

・ベンチャーにとっては負債。B/Sは悪化する。
・日本国内では、通常の貸付で行うと貸金業に該当する恐れがあり、また、新株予約権付社債で行うと結局複雑&登記の費用・手間が大きくなるという問題がある。
・USよりJPでは、VC側の交渉力が強いことが多いため、とにかく早く!(Valuationも後回し)、というニーズは比較的小さい。

ベンチャーにとって「Convertible Note」の最大のデメリットはdebt(負債)である、という点にあります。そこで、debtではなくequityの形にしよう、ということで出てきたのが、「Convertible Equity」という考え方です。
 参考:海外の著名シードVCにより開発された「Convertible Equity」の手法
 ・Y-combinatorのSAFE(simple agreement for future equity)
 ・500 startupsのKISS(Keep It Simple Security)
とはいえ、国によって会社法など法律が異なるため、そのまま日本で使えるわけではありません。「Convertible Equity」は、日本国内では主にJ-KISSとみなし優先株という2つのやり方で、実装されています。 

■J-KISS

▼概要

J-KISSは、上記のKISSの日本版として500 Startups Japanが公開されている投資契約の標準ドキュメントです。

“J-KISSは日本版KISS: Keep It Simple Security、つまり簡単に早くシンプルに資金調達するための投資契約書です。シード段階ではシンプルに素早く資金調達を行い、素早くプロダクトマーケットフィットまでたどり着く。そしてシリーズAの時に初めて、優先株を使って複雑な条件交渉を行えば良い、というシリコンバレーで蓄積された経験を形にしたものです。”
500 Startups Japan webサイトより引用

・新株予約権としての取り扱い(有償新株予約権)
・投資時点ではValuationはFIXしない。
・投資金額、discount(転換価格調整)、Valuation Cap(転換上限価格)を決めるのみ。
・適格資金調達(テンプレでは1億円以上の資金調達)が行われることが決定した場合、J-KISSは転換されてシリーズA優先株に転換
・J-KISSが転換される前に買収された場合、投資額の2倍で金銭償還するか、Valuation Capで普通株に転換した後で買収。

■みなし優先株式

▼概要

みなし優先株式は、Femtoの磯崎哲也氏がご自身の著書「起業のエクイティ・ファイナンス」でドキュメントを公開・解説されている投資手法です。

“普通株式を使った日本版のconvertible equityのアイデアです。会社法上の普通株式なのですが、契約で優先株式と同様の性質を付与されているので、みなし優先株式と呼ぶことにします。Convertible noteが、(a) 書類がシンプルで誰にもわかりやすい、(b)投資時に株価を決めなくていい (c)負債である(普通株式より優先して返済が受けられる)であるのに対し、(a)日本で広く誰でも知っている普通株式の増資を用いて比較的シンプルな事務で済み、(b)投資時に株価をある程度決めてしまう代わりに、(c)負債でなく「資本」であることを明確にするという方法です。”
「起業のエクイティ・ファイナンス」より引用

・普通株式
・Valuationは決める。
・discount、capは基本無し(決められるが複雑化する)
・適格資金調達が行われることが決定した場合、転換されてシリーズA優先株に転換(1:1)
・全株主を巻き込む必要アリ(「全株主の合意があれば、発行済株式の一部を他の種類株式に転換できる」という登記実務を利用)
・転換される前に買収された場合、一般的な優先株の残余財産分配と類似したキメ(例えば、投資額の1倍+参加型)。

■まとめ

J-KISSとみなし優先株式は、どちらも向き不向きがあり、優劣がはっきりしたものではありませんので、十分に理解した上で、自社の資本政策に合った手法を選ぶのが良いのではと思います。
なお、両方とも標準契約ドキュメントが公開されていますが、条文に変更を入れたバージョンが使われているケースもあるので、しっかり読み込むようにしましょう。

個人的には、J-KISSのValuation Capをベンチャー側が理解しきれていない事例があったことと、「普通株式である」という分かりやすさがあることから、Valuationを決められるのであれば、みなし優先株式の方が双方誤解が生まれにくいという点で良いかな、と考えています。一方で、Valuationを先延ばしするにはJ-KISSが向いており、みなし優先株式でdiscountとcapを実現しようとすると、転換時の手間が結構大変なことになります。

投資をする側もされる側も、相応のリテラシーが求められますね。
資本政策は基本的には後戻りできませんので、誰からどういった形で資金調達をするかよく検討しましょう。シード期は専属のCFOを置くことが資金的に難しいため、資金調達もCEOの大事な仕事になる場合が多いです。事業を進捗させることが本質なので資金調達に割く時間がもったいない!というのは事実ですが、逆に次の調達時などに困らないよう、リスクの認識はしっかりしておきましょう。

 

▼第3回はここまで。

今回のtopicsにからむことでもからまないことでも、何かご相談有ればお気軽にどうぞ。

 投資チーム宛て:fund@※

 下里宛て:k.shimosato@※ またはFacebook

 ※はmkto.org

 

 

以上、MAKOTOブログ第3回、下里でした。

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f:id:K_Shimosato:20180703162020j:plain 下里 健二

1981年広島生まれ、仙台在住。
東北大学理学研究科修士課程卒業後、ITベンチャーに就職。
その後、投資顧問、ITベンチャーを経てMAKOTOにJoin。

現在は主に、ベンチャーへの投資・支援、ファンド運営に従事。

今夏はほぼ海に行けませんでした。。。